自分の大切なものを、大切にしたいブログ。

現在名古屋大学文学部社会学科3年生で、コペンハーゲン大学に留学中です。

日本に「転職」という選択肢を。 ①僕が転職にかける理由

読者の皆様へ

 

こんばんは、ふみひろです。今回は僕が一番研究したいと考えている「転職」についての記事を書きたいと思います。

僕は海外に来て、日本のすばらしさを再確認できましたし、感謝しています。けど、日本はもっと良い国になるべきであると思います。しかし、現在の労働市場の仕組みを見ていると、日本人は幸福を追求することをあきらめざるを得ない形になっています。そんな日本に「転職」という選択肢を増やすことがどれだけ大切なことか、この記事を通じて知っていただけると、すごく嬉しいです。

今回知ってほしいことは、

①日本は国際比較上「転職」という選択肢が少ない社会

②僕の考える「転職」の意義

この2点です。「心は熱く、頭は冷静に考える」ことを心掛けました。それでは、早速内容に入っていきたいと思います。

1.日本の労働市場について

転職について書く前に、まず日本の「会社」の構造がどうなっているのかを見てみたいと思います。これをベースに考えます。

日本の企業は特に大企業で、中途採用よりも新規学卒者中心の採用を行っています。年功賃金をインセンティブとした長期雇用を前提とし、多くの企業で入社後に新規学卒者を育成していこうとする考えが根強いです。新規学卒者は若いため、訓練後の期間が長く十分な能力を発揮できるし、その育成される能力も事後内容に合ったものにすることが容易です。人事配置に関しては、内部労働市場、つまり企業内での配置転換が多く、企業外からの人材を獲得するケースが少ないです。そのため失業者や、出産・育児というライフイベントを控えて一度労働市場を退出した女性は、再び正規雇用としてではなく、非正規雇用として採用されていきます。

つまり、「年功賃金(勤続年数が増えれば賃金も高くなる)を採用した長期雇用」を前提とした「新規一括採用」を行い、「OJT(オンザジョブトレーニング)」によって会社が人材を育成し、欠員または新しい部門を作る場合には、「会社内の人間を人事配置する(=ジョブローテーション)」によって人員配置を転換するわけです。これを濱口桂一郎さんは「メンバーシップ型」(労働者同士が家族のように、若手を育て、チームになって助け合う仕組みが由来)と名付けました。もちろん、企業にはいろんなタイプのものがありますが、これがいわゆる典型モデルで、日本に多く存在します。

 

2.日本の転職について

日本の労働市場について書いたところで、「転職」について扱いたいと思います。「転職」とは、要するに「ある企業から他の企業に移る」ことです。上記の日本の仕組みを見て気づいたかもしれませんが、日本は構造上、特に大企業で「転職が起こりにくい」国なのです。企業は欠員や新たな職を作る際に、他の企業から人員を募集するのではなく、会社内の配置転換で人員を補充します。つまり、外から募集する必要がないのです。そこで企業は従業員に新たな経験を積ませていき、多様なスキルを身に着けた「ジェネラリスト」に仕立てていきます。やり方はもちろん企業の方針に沿うので、企業が育成したいように育成します。

そうすると、企業は中途採用する必要はあまりなくなります。つまり、たとえ転職しようとしても、中途採用の募集が少なく、転職という選択肢が自然と増えにくいのです。また、年功賃金という仕組みによって、同じ企業に勤めておけば自動的に賃金が上昇するので、賃金面でわざわざその会社を離れる意味がなくなります。

転職の例外は、高度なスキルを身に着けた労働者の転職、もしくは派遣やパートタイムの雇用の保護の少ない「非正規雇用」の2つです。この2つは日本でも頻繁に起きていると思ってます。

 

3.転職の意義

では、なぜ転職に注目したのか。僕は転職という「選択肢を増やす」ということを主張したいと思います。今の日本社会の構造では、年功賃金であったり、中途採用が少なく、転職したくてもしにくい状況になってます。つまり、「転職」という選択肢が、多くの労働者にはないのです。「別に日本の社会は転職多くなくても回っているのだから、いいのではないか。」そう思う人がいるかもしれませんが、僕は違うということを主張したいです。その理由は6個もあります!僕にとってどれも重要なものなので、全部読んでいただけると嬉しいです。

 

理由① 転職で天職

何ダジャレを言っているのだと、思った方いるかもしれません。しかし、僕は日本語で「転職」と「天職」が同じ発音を持つということはもはや奇跡なのではないかと感じています。

転職は、やりたいことを実現するチャンスを増やしてくれます。つまり、他の企業で職を募集していて、もし魅力的な求人が見つかれば、それに乗っかり、職を変えることで、より自分の可能性が高まります。

転職という手段によって、自分にとっての天職にたどり着ける確率が増えるのです。

 

理由② 今の日本人は本当にやりたいことをやっているのか?

労働は本来社会に貢献する名誉あるもので、喜ばしいものであると思います。僕も働いて、もっと善い人間になりたいと感じています。しかし、今の日本を見ていると、そんなこと思っている人がどれだけいるか、と感じてしまいます。自分のやりたいことやってる人、意欲に満ち溢れた人がこの世の中にどれくらいいるのでしょうか。もちろん、働くことだけが人生のやりたいことではないと思いますが、「労働」というのは、一日の生活の大半を占めるものです。もし転職という選択肢がないあまり、企業の奴隷になり、要求をすべて飲み込み、働くことに喜びを得られなくなったら、それはばかげていると思いませんか?なぜ組織とかいう見えないもののために生きなければならないのでしょうか?僕は、人生を決めるのは自分自身であるべきだと思います。

もちろん、同一企業で生涯勤め上げることは素晴らしいことだと思います。しかし、それは本人がその企業に心の底から貢献したいと思っていればの場合に限ります。自分の本心でないのに、生涯同一企業で務めることに励むなら、それは自分の人生台無しにしてしまっている気がします。そんなことしても、社会にとっても機会損失です。そんな労働意欲で働かされるより、もっといい環境でガツガツ働く方がより付加価値を生み出すに決まってます。こう思うのは僕だけでしょうか?

だから、転職という選択肢を増えれば、より自分の人生を豊かにするチャンスが高まるのではないかと考えています。

 

理由③ 「転職」というカードが労働者の地位を向上させる

転職というカードがあることによって、労働者の権利が向上すると思います。経済学者アルバート・ハーシュマンによれば、労働者がその企業をいつでもやめることができる環境にある場合、企業が賃金なり労働環境なりで悪条件を提示すると、労働者に「退出」されるため、企業は好条件を提示すると提唱しました。しかし、今の日本の「一般的」な労働者に「退出」という選択肢はありません。

ここでいう「退出できない」とは、もちろん退出しようと思えばできますが、退出にメリットを感じないからできない、という意味です。なぜなら、その企業をやめても、上述してあるように、中途採用労働市場が小さく、本人にとって好条件の雇用条件が少ないからです。さらに、年功賃金の制度があると、とどまっておけば自動的に賃金が上昇するので、わざわざ退出する必要がなくなります。さらにさらに、多くの労働者には養う家族がいます。そうすると、「退出」するよりとどまるという選択肢が合理的になります。

そうすると何が起きるか。サービス残業長時間労働といったものが受け入れられてしまうのです!労働者は「退出できない」ため、ある程度悪条件を受け入れても仕方ないと考えてしまいます。昔は企業福祉も整っており、企業への忠誠心を労働者は高く持っていたので、こういったことは今ほど問題視されませんでしたが、今の時代にそんなこと感じている人が何人いるのでしょうか。サービス残業長時間労働をもし労働者自身が進んで受け入れているなら、僕は素晴らしいと思いますし、将来僕もそんなことを気にしないで没頭できるような職につけたら、本当に天職だと思います。しかし、家庭を持ったら家事や育児もしたいですし、多くの労働者は不本意サービス残業長時間労働を受け入れている気がしています。だから悪に感じてしまうのです。

さらに、仕事と子育てや家事を両立しようと奮闘する女性の正規労働者を考えてください。長時間労働が継続すれば、オーバーヒートしてしまうと予想できませんか?だから、多くの女性正社員労働者はやめてしまうのです。そんな従業員がもし働き続け、犠牲になれば、社会に貢献するという使命を掲げているはずの企業が、一番身近な従業員という人たちの人生を台無しにしてしまっていることを意味します。なんと皮肉なことではないでしょうか。

ことわざに「善良な市民が沈黙する時、悪がはびこる」というのがあります。善良な市民が声を上げなければ、サービス残業長時間労働といった悪ははびこるのです。しかし、その会社から退出できない労働者は、上司からの評価や自身の昇進を気にし、声を上げることができません。声を上げるためにも、転職という代替選択肢を用意し、労働者を強気にすることが有効なのではないのでしょうか。

 

理由④ 女性労働者にとって再チャレンジできる社会へ

 

現在、日本政府と企業は「働き方改革」を進められています。労働力不足が見込まれる中、より多くの女性に働いてもらおうと、女性の仕事と育児を両立させる環境の整備が進ているのです。もちろん、「育休」という制度があります。一般の労働者なら1年、公務員なら3年取れます。さらに「時短勤務」、つまり自分の子どもが小さい時には、女性労働者は早く帰宅できる制度もあります。しかし、多くの女性は、それでも育児の時間を十分に確保できないと考えます。民間の育休は1年、つまりまだ子供は1歳なわけで、それで働きに行くのは不安です。実際、育休取得後の退職率はかなり高いのが現状です。時短勤務を利用しても、育児の時間が不十分になってしまうと考える人は多いです。そこで、女性は正規雇用への道をあきらめます。

もし、お母さんが一度会社を辞めて再び働きたくなったら、どうなるか。多くの人はパートタイマーになるのです!そちらの方が、子供との時間も確保できるからです。特に日本の正規雇用は労働時間が週43.8時間(もちろんサービス残業はデータに含まれていない)と、世界的に見ても上位の長さなので、そこで働こうという気になる人が少ないのです。

ただもし再び正規雇用で働きたいと思う人がいたら、どうなるのか。これが現状難しいのです。なぜなら、正規雇用中途採用が少ないからです。正規雇用の転職という選択肢が増えれば、この層をカバーできるのです。もちろん、正規で働きたくない人は、正規雇用という選択肢を取らなければいいのです。この選択肢があることで、特にシングルマザーの方にとっての最善の選択肢というものが増えると考えています。

 

理由⑤ 少子高齢化社会が味方してくれる?労働者の時代へ。


現在、少子高齢化社会で労働力人口の不足が懸念されています。つまり、高齢化で団塊世代などがどんどん引退し、少子化でこれから労働者になる人が少ない分、働き手が少なくなるのです。こうして、企業内の人材が不足すれば、企業は労働者がもっと欲しいと思うようになるわけです!実際、今年の有効求人倍率も労働者にとても有利な水準であり、この傾向はこれからさらに続くとみています。労働者が職を変えようとしても、企業からの求人がなければ徒労に終わってしまいますが、今は企業が人材を欲してるため、転職に追い風です。さらに、働き方改革長時間労働削減を目指す企業は、人材を増やすことで社員一人の負担を減らそうとしています。そのことも転職にはプラスに働き、求人が増えれば、労働者がより職を選べる環境になります。

理由⑥ 企業にとってもメリット

これまで労働者に主に焦点を当ててきましたが、企業にもメリットがあります。欲しい人材を自社内だけでなく、会社の外部からも調達できるチャンスが増えるので、人材の候補者が増えます。そうすれば、成長部門により多くの人を増やしたりできるわけです。それが、企業の成長につながるのではないでしょうか。

 

 

以上が僕が転職にかける理由です。僕はあくまで「転職という選択肢を増やす」という立場です。絶対転職しろとは言わないですし、今の仕事が自分にとっての天職なら、変える必要もありません。ですが、そう感じていないのに、とどまり続けなければならないのは、おかしいと思ってしまいます。だから、「会社にとどまる」or「転職」の選択肢をより多くの人に用意していく必要があると感じています。

では、どうすれば転職が盛んになるのでしょうか?転職は「万人」に開かれるべきだという立場から、高度なスキルを持つ労働者だけの動きにしたくありません。それを考えるうえで、「デンマーク」という国は非常に参考になるのです!そのあたりはまた次回ブログに書きたいと思います!

それでは、またお会いしましょう!

ふみひろ

 

参考文献

濱口桂一郎(2015)『働く女子の運命』文春新書

ハーシュマン(2005)『離脱・発言・忠誠―企業・組織・国家における衰退への反応』矢野修一訳、ミネルヴァ書房

独立行政法人労働政策研修・研究機構, 2017, 「データブック国際労働比較2017」